試し読み 新九郎、奔る! 1巻 感想 レビュー 考察 画像 ネタバレあり あらすじ 内容 ゆうきまさみ これまでの感想はこちら





応仁の乱前夜、以降100年続く戦乱へ繋がっていく“武家政治”の面白さ!





事実は小説より奇なり、少年を主役に、栄華を究めた男らが凋落する様を描く開幕!!
僅か1日、昨日まで磐石だと思っていた地位が失われる恐ろしさ
独自解釈の歴史、倫理と政治のドラマが面白い!
次巻は戦国時代の幕開け“応仁の乱”、現代的な台詞のミスマッチも楽しい!!
■戦国大名の先駆け
今は政変中心ですが、僅か1日で覆る情勢や、これに向き合う武家の在り方が実に楽しい
原因は室町将軍の立場の弱さ、道理に合わないと訴える真っ直ぐな少年が
いかにして冒頭の38歳へと至るのか
政治寄りと思われた叔父の強弓、終始冷静な細川勝元の激昂も熱い!

第1話「伊勢守の戦さ」
第2話「文正の政変その1」
第3話「文正の政変その2」
第4話「応仁前夜その1」
第5話「応仁前夜その2」
第6話「応仁元年」
これまでの感想

一般に悪玉扱いな伊勢守、伊勢貞親が大人物など独特な解釈も面白い
■あらすじ
文正元年(1466年)、伊勢千代丸11歳は、室町幕府の政所を司る伯父の家へ
伯父・伊勢貞親は政所、将軍の養育者で、絶対な権勢を誇ったが
一夜にして追い落とされ近江へと落ち延びた
京に残った伊勢家は、彼らを追い落とした元管領・細川勝元を頼る
だが、やがて勝元も苦しい選択を強いられて名誉を失い
千代丸は言い知れぬ思いを抱く
やがて応仁元年、“本番”の火ぶたが切って落とされようとしていた

ここまではやる!
だが この後のことはもう決めたぞ…
俺が決めた!
思えば簡単なことではないか。
明日からは 俺の主は俺だ!

左近次とは、後述の「狐(正一位)」らしい。立ち振る舞いは若いままなのね
■第1話「伊勢守の戦さ」
冒頭は名応二年(1493年)、北条「鎌倉公方」御所を、主命で攻める新九郎の姿が。
しかし新九郎、これを最後に“独立”する覚悟を決めており
彼の人生の大転機に。
以降、1巻での彼を見ただけでも、彼が“主”に苦労させられたのが解ります
読み終え、再びここに戻ってくると「大きな決意」なんだなと思うし
頑張れと背を押したくなる!
幼い日、主らはおかしいと思った少年は、27年を経てここに着くのね!

初めて「狐」と出会った新九郎は、父を侮辱されたと思い話を遮ってしまう
■室町幕府時代、文正元年(1466年)
民衆による反乱が続き、鎮めようとしない伯父・伊勢守をはがゆく思う“千代丸”
当時、新九郎は元服前で、幼名・千代丸を名乗っていたのですね
とまれ「伯父は財政の長」に過ぎない
伯父が動くのは筋違い、そも土一揆自体、伯父・伊勢守が絡んでいるという
土民=民衆が起こしているというが
指揮官として、国人、領主侍らが指導する一揆もちらほら混ざっているらしい
また新九郎の父は、田舎侍だったのが出世した男。

京を訪れた千代丸の前に、ぬっと姿を見せた「伊勢守」。ある行いで歴史に悪名を残す
■伊勢伊勢守貞親(伊勢貞親)
現八代将軍・足利義政を養育した男で、伊勢は代々、幕府の財政を司る政所の長
彼は、土一揆への対処案「分一銭制度」で名を上げた男であり
土一揆に恩があるとも言える
千代丸の養育者は、彼が居たから先の飢饉も乗越えられたと讃えた
しかし、侍達への食料を確保するのが精一杯で
民衆達は彼を恨んでいる…
などなど
千代丸が言う通り、幕府軍を動かす力を持ってますが、本来なら財政担当



義母は伊勢守の妹で、千代丸の父の地位を担保している
■通称“備前守”:伊勢盛定
母違いの姉、兄との関係は良好なものの、義母からは距離を置かれ居心地が悪い!
千代丸も、これからは実父の館で暮らす事になりました
京都住まいスタート!
特に姉、伊都殿とは仲が良く、本作のヒロイン的な扱い!
とまれ、父も辛いと明かします
伊勢家もピンキリで、田舎侍から気に入られ、政治中枢の傍に取り立てられた
礼儀作法に気を配りつつ、常に“政治”に忙殺されるのね…

父の得意技! 時代に見合わぬ、説明道具が飛び出すのがゆうき先生流
■伊勢家の宴
伊勢家は政治に気を配っており、一時も気が抜けない! 兄も父も閉口している場面も。
目下の問題は、次将軍を「弟が継ぐか/実子が継ぐか」
弟が継いだら大問題!
伊勢家は実子の養育を任されている、こちらが継げばお家安泰
しかし“実子”が長らく生まれなかった
そこで当初「弟に継がせる」と、わざわざ呼び戻したという経緯があった
将軍が約束を守り、弟に譲れば伊勢家は不利となる

将軍様は、前言撤回をし過ぎる
と憤る千代丸
約束は守る、これが武家の在り方ではないのか?
武家の長たる将軍ならば、なおの事!


リアル、という言葉のチョイスがゆうき節!
■新九郎の性根
千代丸は言います、「弟に継がせる」と約束したなら、将軍様は守るべきだと。
彼は、まっすぐに“人の道理を守れ”というのね!
対し伯父・伊勢守は窘める
これは“政治という戦い”だ、その性根では苦労するぞ?と
将軍は約束を守るべき
しかし約束を守れば、実子は将軍を継げず、彼ら伊勢氏も権勢を失う…。
将軍様も、彼の戦いをしておられるのね

伊勢守の実子、伊勢貞宗。伊勢では珍しい「将軍は約束を守るべき」派。
■第2話「文正の政変その1」
伊勢家には礼法こそ弓矢、武器。彼らは武家であり「京都の礼儀」に通じている。
これを、他の武家に教える役割りを担う事で
友好的な関係を築いてきた
相互利益! 素晴らしいという千代丸だが、貞宗は言葉を濁らせた
ここが伏線なのね。
また貞宗殿も、千代丸同様に「母が実母じゃない」ので、同情的である模様
ただこの“伊勢守の後妻”、30歳も歳下だとか!

この「関東管領がいない」話は、165ページでようやく一旦解決する
■「狐(左近次?)」、再会す
さて京都では、伊勢守が後妻の色香に惑わされ、専横をやらかしてると総スカン!
千代丸と読者から見れば、悪賢くも立派な政治家ですが
市中評価はボロボロらしい
嫁に惑った伊勢守が、斯波家の家督争いで、義敏を後押しした(P33)
すると、家督争いに負けた方が軍を召集した!…だけではない。
有力大名・山名宗全が助力
斯波家を介し、伊勢vs山名、という構図に。

それは自分で考えろ。考え続けないと 生き抜けないぞ(狐)。
■今出川殿の謀反
今は真っ直ぐな千代丸が、いかにして、海千山千の北条早雲となっていくか?
千代丸自身が、政治に強い興味を持っていた事と
出会い、“変遷”が鍵か。
さて噂とは、“黙っていても将軍になれる男”、将軍弟・今出川殿の謀反だった
謀反する理由が無い!
問題は、“なのに噂が絶えない”なら、それで得する誰かが噂を流しているという事
誰かは明言されなかったが、この噂で立った男が居た

しかし直後、事態は急転して次回に続く!
■失脚
足利義視、実弟にして“次の将軍”に謀反の疑いあり。と伊勢守は現将軍に直訴
怒った将軍は、義視に切腹を申し付けるよう伊勢守に命じ
夜の内に館を囲む事に
伊勢守の政敵、将軍の弟・義視は、こうして将軍職を継ぐ前に失脚するはずだった
噂が伊勢守の正当性を担保。
つまり「噂で得した」のは、伊勢守となるはず“だった”んですね。
ところが事態は、伊勢守の予想もしなかった方向へ!

今巻では3回に渡り、二代目新右衛門さんによる補足コラムが。
■当時の「室町幕府」
当時権勢を誇り、その身内と聞くだけで、兵士が震え上がった伊勢守!
伊勢家は、「政所」長官を代々受け継ぐ一門。
政所とは財政でした
幕府の財政を握り、現将軍の育ての親、これが強くないわけがない!
しんえもんさん曰く、これで驕ってしまった
奢れる平家は久しからず
実際、伊勢家は“平家”に当たりますが、藪を突いて蛇を出してしまった!


なんと、伊勢守こそ切腹を要求された! 千代丸の父も同様であった
■第3話「文正の政変その2」
前回までの大物っぷりはどこへやら、別人のようにキレた伊勢守!
息子・貞宗に注意を受け、なんとか冷静さを取り戻すも
政治的には完敗してしまった
伊勢守こそ誣告、“虚偽申告で将軍弟を貶めた”とされ、その罪で切腹へ
問題の本質はもちろん別
現将軍に、“政治の要”である伊勢守を排除し、将軍の政治力を削るのが狙い
有力大名達が、政治を主導したいが為のクーデターだと。

問題の根は、切腹を命じた「将軍様」だ! と憤る千代丸
■政闘に敗れた伊勢守
切腹を要求してるのは諸大名、彼らの勢いに負け、将軍は切腹を申し付けた
継承問題に続き、易々と前言撤回する将軍様は
味方にしちゃいけない人だった
また政治力で大きくなった伊勢守は、それで“やりすぎた”と直感する
第1話で、約束を違え“将軍の弟が後を継いだら困る”と謀り
これは戦だと言った伊勢守
政治の力で、他人を怒らせて、敵を作ってしまったのが伊勢守の敗因

強面の伊勢守だが、実は他人に物を教えるのが好き。作法とか武術とか。
■武威復活の為
当時の室町幕府は、将軍自身が政治を行えないほど、大名の力が強くなっていた。
金閣寺を立てた、足利義満公の頃のような権威を
将軍家自体が取り戻したい
だから伊勢守は、他大名の力を削ぐ事に腐心し、敵を作って失脚した
将軍弟を貶めたのも、彼が他大名らにバックアップされてるから。
彼が将軍になっても傀儡になりかねない
しかし現将軍は、いざという時、大名に暗殺された父将軍を思い出してしまうらしい
>




伊勢守が選んだのは、地元へ逃亡し、切腹を免れる事!
■伊勢守、逐電する
将軍はさぞ無念だろう、と涙を飲んだ伊勢守は、千代丸の父と共に領国へ逃亡
伊勢家は凋落、しかしこれ以上の追及はないはずでした
幕府の実務を担っているのですから
ところが! 山名宗全以下、大名勢は“伊勢家を全員追放しろ”と要求
これでは、幕府自体が立ち行かなくなってしまうと判断され
伊勢家の保護が動き出します
それは誰あろう、伊勢家失脚を担った、細川勝元だったのです!

千代丸を寝所に呼ぶぞ? “性的におもちゃにするぞ”と脅したが千代丸は呑んだ!
■第4話「応仁前夜その1」
前管領、政務トップだった細川勝元は聡く、伊勢守が逃亡できたのも彼のおかげだった
政治力を失い、しかし、幕府を動かす実務家を多数抱えている伊勢家は
存続させようという判断あっての事
更に伊勢守の実子、伊勢貞宗が、平身低頭に協力を乞うてきた
もはや断る理由はない
伊勢守を追い込んだ、将軍弟と山名宗全を説得すると約束
※男色、ホモは珍しい事ではなかった。子供が出来ない上に戦場にも連れて行けるし!



やだ、薄い本で盛り上がってる伊都殿かわいい。
■伊勢家の決断
元々、父・伊勢守の謀略、専横に批判的だった伊勢貞宗の動きは早かった!
千代丸の兄は、他ならぬ「将軍弟(義視)」に送られ
平身低頭仕えよと言われる
兄は嫌がったが、貞宗激昂! それが武士の言う事か!!
物分りの良い細川勝元ですが、あくまで「伊勢守を失脚させた」政敵
将軍弟は言わずもがな!
彼らに従うのは嫌だと兄はゴネ、怒られ、千代丸に飛び火ィ!

実母の浅茅様、当時風の化粧もしてないし美人だわ!
■武家として
実母に櫛を贈り、喜ばれ、心から嬉しかった千代丸ですがいい気分もそこまで。
母は「横井家」として、落ち目の伊勢家と付き合う訳にいかず
千代丸とも壁を作ります
良く言えば、一人前扱いされているという事。しかし11歳の少年には辛い…
貞宗の立ち回り、泣いた兄貴、武家の在り方
政闘が実に読み応えありますね
尊ばれるのは利害という軸、伊勢守の将軍観といい、本当に面白いです


たちまち笑い、そして多分たちまち怒る! 魅力溢れる老将よ!!
■第5話「応仁前夜その2」
通称「赤入道」、山名宗全登場! 第2話の噂話で伊勢守と間接戦争をし
将軍弟、勝元と並び、伊勢守を失脚させた老将!
迫力と魅力に溢れてる!
現将軍のトラウマ、父将軍暗殺の際、反逆者討伐で名を上げた猛将!
千代丸が、自分を恨んでいるなど百も承知で
互いに「恨んでるか?」「YES」と
碁を打ちながら、正直すぎる会話する二人、ヒヤヒヤもんスよ!

上、左が宗全、右が勝元。しかし宗全も相当に食わせものらしい
■「赤入道」山名宗全
全国66ヶ国という時代に、9ヶ国を所管する権力は、優れた魅力と度量があったればこそ。
加えて、“目が笑わない”切れ者・細川勝元が組んでいる今
伊勢家に浮かぶ目はありません
これからは政所の役割に徹し、“政治”はしない。伊勢守の時代が異常だったと
二人の会合で、伊勢家追放の声も小さくなっていき
何とか冬を迎える事に
年の頭は栄華を極め、年の暮れにはしょぼくれる。栄枯盛衰ですねえ…。



千代丸たちがボヤく中、“13歳の関東管領(関東の政治長官)”が誕生し…。
■大人と子供と
大人になる事を強いられる子供、子供が生まれて、初めて目が笑った細川勝元
国として、家としての懸案が晴れていき
波乱の年も終わりへ
そも現将軍は8歳で、細川勝元も13歳で家を継ぎ、16で管領に就いた
勝元様は、「そこは大人たちが上手く回してくれる」と語り
千代丸にも良き師に。
細川家に頼る伊勢家、なんとか土俵際で堪えましたが…、そうはいかなんだ!

逆ギレだよ! とかいう物言いがまたおかしい!!
■代理戦争
山名宗全を後ろ盾に畠山義就が上洛、彼は、自分を追い落とした畠山政長を恨んでおり
上洛と共に、彼から家督・管領職・畠山邸宅を奪い取り
長年の争いに勝利
しかし敗れた政長は、細川勝元が後ろ盾となっていたのです
畠山家の家督争いを介し、山名と細川が激突!
京に戦火が吹き荒れる事に
政争に敗れた畠山政長は、渡せ、と言われた屋敷を逆ギレして放火!

冒頭で新九郎38歳が攻め入ったのが、関東公方(将軍)の館でした
■関東(鎌倉)公方
室町幕府の本拠地は京都ですが、前幕府の地、鎌倉にも「鎌倉府」を置いてます
しかし鎌倉府の長、足利家は二度に渡って反乱した末
独自組織「古河公方」に
関東豪族の惣領として、室町幕府と敵対する存在となっています
対し、13歳の子供が就くことになった関東管領とは
いわば幕府出先機関としての長
関東を治めつつ、古河公方と戦う、難しい立場であるというワケね



冷静さが身上だった細川勝元、吼える! ここは子供の来るところではないわ!!
■第6話「応仁元年」
伊勢守らを失った将軍は、この山名・細川代理戦争を止めるどころか、山名に付く他なく
幕府の頭領が、山名宗全の言いなりなのかと千代丸は嘆き
細川勝元も“凋落”へ
支援していた畠山政長の敗北、加勢してやれない細川は評判ガタ落ち!
なんといっても幕府は、表向き「戦には誰も加担するな」としている為
動けば厳罰に処されます
伊勢家が頼った細川勝元も、見る間に政治力を失う事に

面目を潰された細川勝元、次巻、100年に渡る戦乱の発端“応仁の乱”へ…?
ビッグコミックス「新九郎、奔る! 1巻」。ゆうきまさみ。
週刊ビッグコミックスピリッツ連載、小学館発行。
2018年8月(前巻2017年6月)
■収録
第1話「伊勢守の戦さ」
第2話「文正の政変その1」
第3話「文正の政変その2」
第4話「応仁前夜その1」
第5話「応仁前夜その2」
第6話「応仁元年」
これまでの感想
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白暮のクロニクル 4巻
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白暮のクロニクル 7巻“銀幕に揺れる影”
白暮のクロニクル 8巻“血に煙ぶる聖夜”
白暮のクロニクル 9巻“大きな羊は美しい”
白暮のクロニクル 10巻“大きな羊は美しい2”
白暮のクロニクル 11巻“男と女とオキナガと”【最終回】
新九郎、奔る! 1巻“後の北条早雲である”
僅か1日、昨日まで磐石だと思っていた地位が失われる恐ろしさ
独自解釈の歴史、倫理と政治のドラマが面白い!
次巻は戦国時代の幕開け“応仁の乱”、現代的な台詞のミスマッチも楽しい!!
■戦国大名の先駆け
今は政変中心ですが、僅か1日で覆る情勢や、これに向き合う武家の在り方が実に楽しい
原因は室町将軍の立場の弱さ、道理に合わないと訴える真っ直ぐな少年が
いかにして冒頭の38歳へと至るのか
政治寄りと思われた叔父の強弓、終始冷静な細川勝元の激昂も熱い!
新九郎、奔る! 1巻 感想

第1話「伊勢守の戦さ」
第2話「文正の政変その1」
第3話「文正の政変その2」
第4話「応仁前夜その1」
第5話「応仁前夜その2」
第6話「応仁元年」
これまでの感想
室町幕府を仕切る伊勢一族として生まれ、1巻にして2度も“凋落”を見た彼は

一般に悪玉扱いな伊勢守、伊勢貞親が大人物など独特な解釈も面白い
■あらすじ
文正元年(1466年)、伊勢千代丸11歳は、室町幕府の政所を司る伯父の家へ
伯父・伊勢貞親は政所、将軍の養育者で、絶対な権勢を誇ったが
一夜にして追い落とされ近江へと落ち延びた
京に残った伊勢家は、彼らを追い落とした元管領・細川勝元を頼る
だが、やがて勝元も苦しい選択を強いられて名誉を失い
千代丸は言い知れぬ思いを抱く
やがて応仁元年、“本番”の火ぶたが切って落とされようとしていた
冒頭は27年後。この時、初めて新九郎は“歴史の表舞台”に立つ

ここまではやる!
だが この後のことはもう決めたぞ…
俺が決めた!
思えば簡単なことではないか。
明日からは 俺の主は俺だ!

左近次とは、後述の「狐(正一位)」らしい。立ち振る舞いは若いままなのね
■第1話「伊勢守の戦さ」
冒頭は名応二年(1493年)、北条「鎌倉公方」御所を、主命で攻める新九郎の姿が。
しかし新九郎、これを最後に“独立”する覚悟を決めており
彼の人生の大転機に。
以降、1巻での彼を見ただけでも、彼が“主”に苦労させられたのが解ります
読み終え、再びここに戻ってくると「大きな決意」なんだなと思うし
頑張れと背を押したくなる!
幼い日、主らはおかしいと思った少年は、27年を経てここに着くのね!
遡ること27年前、京都周辺は土一揆が頻発。「伯父なら鎮められるのに」と逸る

初めて「狐」と出会った新九郎は、父を侮辱されたと思い話を遮ってしまう
■室町幕府時代、文正元年(1466年)
民衆による反乱が続き、鎮めようとしない伯父・伊勢守をはがゆく思う“千代丸”
当時、新九郎は元服前で、幼名・千代丸を名乗っていたのですね
とまれ「伯父は財政の長」に過ぎない
伯父が動くのは筋違い、そも土一揆自体、伯父・伊勢守が絡んでいるという
土民=民衆が起こしているというが
指揮官として、国人、領主侍らが指導する一揆もちらほら混ざっているらしい
また新九郎の父は、田舎侍だったのが出世した男。
伊勢守、千代丸の叔父は「現将軍の育ての親」!

京を訪れた千代丸の前に、ぬっと姿を見せた「伊勢守」。ある行いで歴史に悪名を残す
■伊勢伊勢守貞親(伊勢貞親)
現八代将軍・足利義政を養育した男で、伊勢は代々、幕府の財政を司る政所の長
彼は、土一揆への対処案「分一銭制度」で名を上げた男であり
土一揆に恩があるとも言える
千代丸の養育者は、彼が居たから先の飢饉も乗越えられたと讃えた
しかし、侍達への食料を確保するのが精一杯で
民衆達は彼を恨んでいる…
などなど
千代丸が言う通り、幕府軍を動かす力を持ってますが、本来なら財政担当
千代丸の家族達。“血の繋がらぬ母”とその息子、娘、そして父!



義母は伊勢守の妹で、千代丸の父の地位を担保している
■通称“備前守”:伊勢盛定
母違いの姉、兄との関係は良好なものの、義母からは距離を置かれ居心地が悪い!
千代丸も、これからは実父の館で暮らす事になりました
京都住まいスタート!
特に姉、伊都殿とは仲が良く、本作のヒロイン的な扱い!
とまれ、父も辛いと明かします
伊勢家もピンキリで、田舎侍から気に入られ、政治中枢の傍に取り立てられた
礼儀作法に気を配りつつ、常に“政治”に忙殺されるのね…
失礼仕る!。本作の面白みは、“真っ当な時代劇ではない”ゆうき節よ!

父の得意技! 時代に見合わぬ、説明道具が飛び出すのがゆうき先生流
■伊勢家の宴
伊勢家は政治に気を配っており、一時も気が抜けない! 兄も父も閉口している場面も。
目下の問題は、次将軍を「弟が継ぐか/実子が継ぐか」
弟が継いだら大問題!
伊勢家は実子の養育を任されている、こちらが継げばお家安泰
しかし“実子”が長らく生まれなかった
そこで当初「弟に継がせる」と、わざわざ呼び戻したという経緯があった
将軍が約束を守り、弟に譲れば伊勢家は不利となる
弟君も子持ち、彼に将軍職を譲れば「我が子」に継がせるに違いない!

将軍様は、前言撤回をし過ぎる
と憤る千代丸
約束は守る、これが武家の在り方ではないのか?
武家の長たる将軍ならば、なおの事!


リアル、という言葉のチョイスがゆうき節!
■新九郎の性根
千代丸は言います、「弟に継がせる」と約束したなら、将軍様は守るべきだと。
彼は、まっすぐに“人の道理を守れ”というのね!
対し伯父・伊勢守は窘める
これは“政治という戦い”だ、その性根では苦労するぞ?と
将軍は約束を守るべき
しかし約束を守れば、実子は将軍を継げず、彼ら伊勢氏も権勢を失う…。
将軍様も、彼の戦いをしておられるのね
伊勢家は「礼儀を教える」事で、大きな力を得てきた家柄

伊勢守の実子、伊勢貞宗。伊勢では珍しい「将軍は約束を守るべき」派。
■第2話「文正の政変その1」
伊勢家には礼法こそ弓矢、武器。彼らは武家であり「京都の礼儀」に通じている。
これを、他の武家に教える役割りを担う事で
友好的な関係を築いてきた
相互利益! 素晴らしいという千代丸だが、貞宗は言葉を濁らせた
ここが伏線なのね。
また貞宗殿も、千代丸同様に「母が実母じゃない」ので、同情的である模様
ただこの“伊勢守の後妻”、30歳も歳下だとか!
9月5日。関東は「関東管領」が不在で、政治的混乱が続いていた

この「関東管領がいない」話は、165ページでようやく一旦解決する
■「狐(左近次?)」、再会す
さて京都では、伊勢守が後妻の色香に惑わされ、専横をやらかしてると総スカン!
千代丸と読者から見れば、悪賢くも立派な政治家ですが
市中評価はボロボロらしい
嫁に惑った伊勢守が、斯波家の家督争いで、義敏を後押しした(P33)
すると、家督争いに負けた方が軍を召集した!…だけではない。
有力大名・山名宗全が助力
斯波家を介し、伊勢vs山名、という構図に。
噂を流して回る「狐」。この噂で、得をするのは誰だろうか?

それは自分で考えろ。考え続けないと 生き抜けないぞ(狐)。
■今出川殿の謀反
今は真っ直ぐな千代丸が、いかにして、海千山千の北条早雲となっていくか?
千代丸自身が、政治に強い興味を持っていた事と
出会い、“変遷”が鍵か。
さて噂とは、“黙っていても将軍になれる男”、将軍弟・今出川殿の謀反だった
謀反する理由が無い!
問題は、“なのに噂が絶えない”なら、それで得する誰かが噂を流しているという事
誰かは明言されなかったが、この噂で立った男が居た
伊勢守、立つ! “次期将軍に謀反あり”、現将軍にご注進!!

しかし直後、事態は急転して次回に続く!
■失脚
足利義視、実弟にして“次の将軍”に謀反の疑いあり。と伊勢守は現将軍に直訴
怒った将軍は、義視に切腹を申し付けるよう伊勢守に命じ
夜の内に館を囲む事に
伊勢守の政敵、将軍の弟・義視は、こうして将軍職を継ぐ前に失脚するはずだった
噂が伊勢守の正当性を担保。
つまり「噂で得した」のは、伊勢守となるはず“だった”んですね。
ところが事態は、伊勢守の予想もしなかった方向へ!
逆に館を包囲された伊勢守、“政所執事”の罷免を求められてしまった!

今巻では3回に渡り、二代目新右衛門さんによる補足コラムが。
■当時の「室町幕府」
当時権勢を誇り、その身内と聞くだけで、兵士が震え上がった伊勢守!
伊勢家は、「政所」長官を代々受け継ぐ一門。
政所とは財政でした
幕府の財政を握り、現将軍の育ての親、これが強くないわけがない!
しんえもんさん曰く、これで驕ってしまった
奢れる平家は久しからず
実際、伊勢家は“平家”に当たりますが、藪を突いて蛇を出してしまった!
第3話「文正の政変」。前夜まで隆盛を誇った伊勢守、失脚する


なんと、伊勢守こそ切腹を要求された! 千代丸の父も同様であった
■第3話「文正の政変その2」
前回までの大物っぷりはどこへやら、別人のようにキレた伊勢守!
息子・貞宗に注意を受け、なんとか冷静さを取り戻すも
政治的には完敗してしまった
伊勢守こそ誣告、“虚偽申告で将軍弟を貶めた”とされ、その罪で切腹へ
問題の本質はもちろん別
現将軍に、“政治の要”である伊勢守を排除し、将軍の政治力を削るのが狙い
有力大名達が、政治を主導したいが為のクーデターだと。
一夜で失脚した伯父上、千代丸は世の儚さを知る

問題の根は、切腹を命じた「将軍様」だ! と憤る千代丸
■政闘に敗れた伊勢守
切腹を要求してるのは諸大名、彼らの勢いに負け、将軍は切腹を申し付けた
継承問題に続き、易々と前言撤回する将軍様は
味方にしちゃいけない人だった
また政治力で大きくなった伊勢守は、それで“やりすぎた”と直感する
第1話で、約束を違え“将軍の弟が後を継いだら困る”と謀り
これは戦だと言った伊勢守
政治の力で、他人を怒らせて、敵を作ってしまったのが伊勢守の敗因
しかし伊勢守は「将軍」に対し、まるで違う考えを持っていた

強面の伊勢守だが、実は他人に物を教えるのが好き。作法とか武術とか。
■武威復活の為
当時の室町幕府は、将軍自身が政治を行えないほど、大名の力が強くなっていた。
金閣寺を立てた、足利義満公の頃のような権威を
将軍家自体が取り戻したい
だから伊勢守は、他大名の力を削ぐ事に腐心し、敵を作って失脚した
将軍弟を貶めたのも、彼が他大名らにバックアップされてるから。
彼が将軍になっても傀儡になりかねない
しかし現将軍は、いざという時、大名に暗殺された父将軍を思い出してしまうらしい
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強弓! 伊勢守は、“将軍の重荷になるまい”と身を引く決意をする




伊勢守が選んだのは、地元へ逃亡し、切腹を免れる事!
■伊勢守、逐電する
将軍はさぞ無念だろう、と涙を飲んだ伊勢守は、千代丸の父と共に領国へ逃亡
伊勢家は凋落、しかしこれ以上の追及はないはずでした
幕府の実務を担っているのですから
ところが! 山名宗全以下、大名勢は“伊勢家を全員追放しろ”と要求
これでは、幕府自体が立ち行かなくなってしまうと判断され
伊勢家の保護が動き出します
それは誰あろう、伊勢家失脚を担った、細川勝元だったのです!
第4話。伊勢家を失脚させた巨頭の一つ、細川勝元との交渉が始まる

千代丸を寝所に呼ぶぞ? “性的におもちゃにするぞ”と脅したが千代丸は呑んだ!
■第4話「応仁前夜その1」
前管領、政務トップだった細川勝元は聡く、伊勢守が逃亡できたのも彼のおかげだった
政治力を失い、しかし、幕府を動かす実務家を多数抱えている伊勢家は
存続させようという判断あっての事
更に伊勢守の実子、伊勢貞宗が、平身低頭に協力を乞うてきた
もはや断る理由はない
伊勢守を追い込んだ、将軍弟と山名宗全を説得すると約束
※男色、ホモは珍しい事ではなかった。子供が出来ない上に戦場にも連れて行けるし!
兄『千代丸、お前は腰抜けだ!』



やだ、薄い本で盛り上がってる伊都殿かわいい。
■伊勢家の決断
元々、父・伊勢守の謀略、専横に批判的だった伊勢貞宗の動きは早かった!
千代丸の兄は、他ならぬ「将軍弟(義視)」に送られ
平身低頭仕えよと言われる
兄は嫌がったが、貞宗激昂! それが武士の言う事か!!
物分りの良い細川勝元ですが、あくまで「伊勢守を失脚させた」政敵
将軍弟は言わずもがな!
彼らに従うのは嫌だと兄はゴネ、怒られ、千代丸に飛び火ィ!
兄と大喧嘩を終えた千代丸、「実母」の元へ行く

実母の浅茅様、当時風の化粧もしてないし美人だわ!
■武家として
実母に櫛を贈り、喜ばれ、心から嬉しかった千代丸ですがいい気分もそこまで。
母は「横井家」として、落ち目の伊勢家と付き合う訳にいかず
千代丸とも壁を作ります
良く言えば、一人前扱いされているという事。しかし11歳の少年には辛い…
貞宗の立ち回り、泣いた兄貴、武家の在り方
政闘が実に読み応えありますね
尊ばれるのは利害という軸、伊勢守の将軍観といい、本当に面白いです
第5話、敵地・細川家に飛び込んできたのは、“最大の敵”だった!


たちまち笑い、そして多分たちまち怒る! 魅力溢れる老将よ!!
■第5話「応仁前夜その2」
通称「赤入道」、山名宗全登場! 第2話の噂話で伊勢守と間接戦争をし
将軍弟、勝元と並び、伊勢守を失脚させた老将!
迫力と魅力に溢れてる!
現将軍のトラウマ、父将軍暗殺の際、反逆者討伐で名を上げた猛将!
千代丸が、自分を恨んでいるなど百も承知で
互いに「恨んでるか?」「YES」と
碁を打ちながら、正直すぎる会話する二人、ヒヤヒヤもんスよ!
“預かりもの”千代丸を殺されては困る! 細川勝元、自ら乱入で収拾へ

上、左が宗全、右が勝元。しかし宗全も相当に食わせものらしい
■「赤入道」山名宗全
全国66ヶ国という時代に、9ヶ国を所管する権力は、優れた魅力と度量があったればこそ。
加えて、“目が笑わない”切れ者・細川勝元が組んでいる今
伊勢家に浮かぶ目はありません
これからは政所の役割に徹し、“政治”はしない。伊勢守の時代が異常だったと
二人の会合で、伊勢家追放の声も小さくなっていき
何とか冬を迎える事に
年の頭は栄華を極め、年の暮れにはしょぼくれる。栄枯盛衰ですねえ…。
細川様の目が笑った!? 子供達が“大人になりたい”とボヤく中…



千代丸たちがボヤく中、“13歳の関東管領(関東の政治長官)”が誕生し…。
■大人と子供と
大人になる事を強いられる子供、子供が生まれて、初めて目が笑った細川勝元
国として、家としての懸案が晴れていき
波乱の年も終わりへ
そも現将軍は8歳で、細川勝元も13歳で家を継ぎ、16で管領に就いた
勝元様は、「そこは大人たちが上手く回してくれる」と語り
千代丸にも良き師に。
細川家に頼る伊勢家、なんとか土俵際で堪えましたが…、そうはいかなんだ!
細川と山名が割れる! 年末年始、大騒動の端緒が開かれる

逆ギレだよ! とかいう物言いがまたおかしい!!
■代理戦争
山名宗全を後ろ盾に畠山義就が上洛、彼は、自分を追い落とした畠山政長を恨んでおり
上洛と共に、彼から家督・管領職・畠山邸宅を奪い取り
長年の争いに勝利
しかし敗れた政長は、細川勝元が後ろ盾となっていたのです
畠山家の家督争いを介し、山名と細川が激突!
京に戦火が吹き荒れる事に
政争に敗れた畠山政長は、渡せ、と言われた屋敷を逆ギレして放火!
教えて新右衛門さん! 関東管領の騒ぎって?

冒頭で新九郎38歳が攻め入ったのが、関東公方(将軍)の館でした
■関東(鎌倉)公方
室町幕府の本拠地は京都ですが、前幕府の地、鎌倉にも「鎌倉府」を置いてます
しかし鎌倉府の長、足利家は二度に渡って反乱した末
独自組織「古河公方」に
関東豪族の惣領として、室町幕府と敵対する存在となっています
対し、13歳の子供が就くことになった関東管領とは
いわば幕府出先機関としての長
関東を治めつつ、古河公方と戦う、難しい立場であるというワケね
第6話、御霊合戦勃発! “目が笑わない男”細川勝元、吼える!!



冷静さが身上だった細川勝元、吼える! ここは子供の来るところではないわ!!
■第6話「応仁元年」
伊勢守らを失った将軍は、この山名・細川代理戦争を止めるどころか、山名に付く他なく
幕府の頭領が、山名宗全の言いなりなのかと千代丸は嘆き
細川勝元も“凋落”へ
支援していた畠山政長の敗北、加勢してやれない細川は評判ガタ落ち!
なんといっても幕府は、表向き「戦には誰も加担するな」としている為
動けば厳罰に処されます
伊勢家が頼った細川勝元も、見る間に政治力を失う事に
収録

面目を潰された細川勝元、次巻、100年に渡る戦乱の発端“応仁の乱”へ…?
ビッグコミックス「新九郎、奔る! 1巻」。ゆうきまさみ。
週刊ビッグコミックスピリッツ連載、小学館発行。
2018年8月(前巻2017年6月)
■収録
第1話「伊勢守の戦さ」
第2話「文正の政変その1」
第3話「文正の政変その2」
第4話「応仁前夜その1」
第5話「応仁前夜その2」
第6話「応仁元年」
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